導波管と伝送線路モデル
および導波管内の散乱体とその等価回路
2002/3/4 東京工業大学 平野拓一

図 1 導波管内の散乱体
導波管内を基本モード(
モード)だけが伝搬できる場合、伝送線路(分布定数線路)モデルとして扱うことができる。そのとき、図 1のように導波管内に散乱体があるとき、散乱体はどのような等価インピーダンスとして書けるか考える。また、ここでの議論は導波管でなくても同軸ケーブル、平行二本線路(フィーダ)など他の種々の伝送線路でも通用する。

図 2 導波管の伝送線路モデルと散乱体の等価回路
図 1のモデルを図 2の上のように伝送線路と等価回路を使って表すことができる(詳しくは最後のコラム参照)。等価回路で表すと、反射位相、透過位相がどのように変化するのかを直感的につかむことができる。
普通、モーメント法、有限要素法、FDTD法などの電磁界解析により、(電圧、または電界に対する)反射係数
と透過係数
が求まる。また、実験でもネットワークアナライザで
を測定する。よって、
は得られているとして、それらを使って散乱体の等価回路を求める。
(2)
■
を
で表す (等価回路モデルを作る)
式(1)より、

![]()
![]()
![]()
(4)
■
を
で表す (等価インピーダンスから反射係数を計算する)
式(3)より、
幅
の導波管の
モードの特性インピーダンスは
![]()
となる。ただし、
は導波管内の位相定数であり、
は導波管内充填媒質の比透磁率、
は真空中の特性インピーダンス、
は自由空間での波数である。
は実数になる(特性インピーダンスはその定義より必ず実数である。名前を「特性抵抗」にすべきであるという意見もある)。
(例)
式(5)より、

ただし、
(規格化インピーダンス)とおいた。
ここで、散乱体は無損失として
(
は実数),
とおくと、

■
を
で表現する
![]()
と式(5)より、
(6)
(例)
(
は実数)とおくと、前節と同様にして

[コラム]
の直感的説明

図 3 導波管内の薄い散乱体
散乱体が伝送線路の伝搬方向に対して非常に薄いとき、散乱体の手前側と向こう側の電圧(電界)と電流(磁界)は同じであると仮定する。電磁界の散乱問題を考えるとき、散乱体表面に電磁流を仮定し、散乱体による散乱をそれら電磁流からの放射に置き換えて散乱体を取り除いて考えることができる(等価定理)。つまり、散乱体による反射波は散乱体表面の電磁流からの放射そのものであり、透過波は入射波と電磁流からの放射の線形和として表すことができる。

図 4 入射界と散乱界
散乱体が伝搬方向に対して非常に薄いとき、散乱体表面に仮定した電磁流から進行方向と逆方向に同じ振幅・位相で散乱波が再放射される。
反射係数
と透過係数
の関係式
![]()
はそのことを表している。1は散乱体の場所での入射波を表している。透過波の散乱面での振幅と位相
は入射波と散乱波
の代数和で書けるという意味を持つ。伝送線路モデルでは普通、線路と線路の結合、または波長に対して非常に小さな集中定数回路との結合を扱っており、導波管内の散乱体が非常に薄いときと同じようなものであり、今の考え方が通用する。このように、少し抽象的な伝送線路理論を具体的な電磁波の散乱問題で考えると非常に明解となる。
導波管内に厚い散乱体がある場合でも、反射係数または透過係数から等価回路モデルを描くことが可能であるが、そのときは散乱体周辺には境界条件を合わせるように高次モードが立つが、それらは減衰モード(エバネッセントモード)であり、散乱体から十分離れた場所では高次モードは減衰して基本モードだけが伝搬される。従って、遠くから見たときに等価的に厚い散乱体がどのようなインピーダンスに見えるのかを論じることができる。厚い散乱体に対してある参照面(reference plane)での反射・透過係数を言うときには、基本モードに関して、散乱体から十分離れたときにどのように反射・透過波の位相がずれるのかを言うのである。

図 5 指向性と散乱指向性
今は2つの基本モードの開口(ポート, portと言う)を扱ったが、より一般には出入り口は2つだけでなく、多数個あるマルチポートとなる。方向性結合器、サーキュレータなどがその例である。マルチポートのマイクロ波回路では等価回路モデルよりも散乱行列を扱う方が便利である。究極の場合には自由空間に置かれたアンテナから電磁界が放射される場合や、電磁界が自由空間中にある散乱体に散乱される場合には、開口という概念は無くなり、観測点を空間中任意の位置に置くことができ、無限の連続開口と見なすことが出来る。そのときに散乱行列に相当するものは前者の場合には指向性であり、後者の場合には散乱指向性である。